全力で走っても同じ場所にいる職場と『赤の女王仮説』

インテリ皮肉度
シェア:𝕏finL

あるある!こんなシチュエーション

必死に勉強して資格を取ったのに、みんなも取得済み。スキルアップしても相対的地位は変わらない。この終わりなき競争、実は「不思議の国のアリス」が予言していた。

実践!こう使え!

資格取得してもみんな持ってると知って「赤の女王仮説ですね」とつぶやく。「全力で走っても同じ場所」と、勉強した時間を思い出してため息。

詳しく解説!雑学のコーナー

赤の女王仮説(Red Queen Hypothesis)は、進化生物学者リー・ヴァン・ヴェーレンが1973年に提唱した理論です。ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」で、赤の女王が「この国では、同じ場所に留まるためには、全力で走り続けなければならない」と語ったことから命名されました。元は生物進化の理論ですが、現代の競争社会を完璧に説明しています。 ヴァン・ヴェーレンは化石記録を分析し、驚くべき発見をしました。種の絶滅率は時代に関わらず一定で、どんなに進化しても生存確率は向上しないのです。捕食者が速くなれば獲物も速くなり、相対的な関係は変わらない。全ての種が必死に進化しているのに、誰も有利にならないのです。 現代の労働市場がまさにこれです。1970年代、大卒は全体の10%でエリートでした。現在は50%を超え、大卒は「普通」になりました。MBAも同じ運命を辿り、1990年には年間7万人だった取得者が、現在は20万人。希少価値は消え、「持っていて当たり前」になりました。 IT業界は最も激しい赤の女王レースです。プログラミング言語の寿命は平均7年。エンジニアは常に新しい技術を学び続けなければ、市場価値を維持できません。Stack Overflowの調査では、エンジニアの68%が「学習を止めたら3年で陳腐化する」と回答。全員が走り続けているのです。 日本企業の資格取得競争も典型例です。TOEICの平均点は20年で100点上昇しましたが、「英語ができる」基準も600点から800点に上昇。簿記、中小企業診断士、情報処理技術者。みんなが取得するので、持っていないとマイナス評価。資格産業の市場規模は年間1兆円を超え、赤の女王レースが巨大ビジネスになっています。 企業間競争も同様です。Amazonが翌日配送を始めると、全社が追随。今や当日配送も珍しくありません。顧客の期待値が上がり、昔のサービスレベルでは生き残れない。航空会社のマイレージプログラム、銀行の手数料無料化、すべて「やらないと負ける」競争です。 学歴インフレも深刻です。中国では大学院進学率が20年で10倍に増加。修士号が「普通」になり、博士号取得者も急増。しかし全体の就職率は改善せず、むしろ高学歴ワーキングプアが増加。韓国では、大卒の50%が非正規雇用という皮肉な結果になっています。 最新の研究が恐ろしい未来を示唆しています。AIの登場で赤の女王レースは加速し、人間の学習速度では追いつけなくなる可能性があります。MITの予測では、2030年までに現在のスキルの70%が陳腐化。一生学び続けても、相対的地位は下がり続ける可能性があるのです。 赤の女王仮説の教訓は残酷です。競争から降りれば確実に脱落しますが、走り続けても前進できない。唯一の希望は、ゲームのルール自体を変えること。しかし、それができる立場に立つためには、まず赤の女王レースに勝たねばならないという究極のパラドックスがあるのです。

※ ご利用は自己責任でお願いします。当サイトは、あなたの職場での人間関係を一切保証いたしません。