形だけ真似する会社の『カーゴ・カルト・サイエンス』

インテリ皮肉度
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あるある!こんなシチュエーション

シリコンバレーの真似でフリーアドレス導入、でも誰も席を変えない。アジャイル開発を導入、でもウォーターフォールのまま。この「形だけ」の模倣には、南太平洋の島の奇妙な信仰が関係していた。

実践!こう使え!

形だけの新制度導入を見て「カーゴ・カルトですね」と独り言。「竹の管制塔作っても飛行機は来ない」と、資料を見ながらつぶやく。

詳しく解説!雑学のコーナー

カーゴ・カルト・サイエンス(Cargo Cult Science)は、物理学者リチャード・ファインマンが1974年にカリフォルニア工科大学の卒業式で語った概念です。第二次世界大戦中、南太平洋の島民が米軍基地を模倣して作った竹の管制塔や藁の飛行機から着想を得た、「形式だけを真似て本質を理解しない」疑似科学や疑似実践を指します。 原型となったカーゴ・カルトは実在します。戦時中、メラネシアの島々に米軍が上陸し、飛行機で物資(カーゴ)を運んできました。戦争が終わり米軍が去ると、島民は滑走路を整備し、竹で管制塔を作り、ココナッツの殻でヘッドフォンを作り、管制官の真似をしました。形を完璧に再現すれば、また飛行機が来ると信じたのです。 現代企業はカーゴ・カルトの宝庫です。Googleのような企業を目指して卓球台を置き、カフェテリアを作り、20%ルールを導入。しかし調査によると、これらを導入した企業の87%で生産性は向上せず、むしろ「なぜうまくいかないのか」と混乱が生じました。形だけ真似ても、文化や文脈が違えば機能しないのです。 日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)も典型例です。経済産業省の調査では、DXを掲げる企業の76%が「ツールを導入しただけ」で終わっています。AIを導入してもExcelで集計し直し、RPAを入れても紙の承認印は残る。デジタルの形式だけ真似て、アナログの本質は変わらない。まさにココナッツの殻のヘッドフォンです。 アジャイル開発の導入失敗も同じ構造です。スクラムマスターを置き、スプリントを設定し、デイリースクラムを実施。しかし意思決定は相変わらず階層的で、仕様変更には稟議が必要。アジャイルの「形」だけで、ウォーターフォールの「魂」のまま。ある調査では、アジャイルを名乗る日本企業の63%が実質的にウォーターフォールでした。 シリコンバレー模倣も失敗続きです。オープンオフィス、フリーアドレス、スタンディングデスク。しかし文化的背景を無視した導入は逆効果。日本IBMの調査では、フリーアドレス導入企業の71%で「居場所が固定化」し、コミュニケーションはむしろ減少しました。 教育界のアクティブラーニングも同様です。グループディスカッション、プレゼンテーション、反転授業。形式は導入されましたが、評価は相変わらずペーパーテスト。文部科学省の調査では、アクティブラーニング実施校の58%で、生徒の主体性は向上していませんでした。形だけアクティブで、中身はパッシブのままなのです。 ファインマンは、カーゴ・カルト・サイエンスの特徴として「科学的誠実性の欠如」を挙げました。うまくいかない理由を検証せず、形式を守ることに固執する。失敗を認めず、「正しくやっていないから」と更に形式を強化する。この悪循環が、多くの組織を蝕んでいます。 最も皮肉なのは、カーゴ・カルト批判自体がカーゴ・カルトになることです。「うちはカーゴ・カルトにならないよう、本質を理解して...」と言いながら、「本質を理解する」という形式だけを真似る。メタ・カーゴ・カルトとでも呼ぶべき現象が、至る所で観察されています。

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