楽観的なのに現実的でいろという『ストックデールの逆説』
あるある!こんなシチュエーション
「ポジティブシンキングで行こう!」と言いながら「現実を見ろ」とも言う上司。この矛盾した要求、実はベトナム戦争の捕虜収容所で生き残る秘訣だった。
実践!こう使え!
厳しい現実と楽観的な目標を同時に要求されて「ストックデールの逆説ですか」とつぶやく。「現実を見ながら希望を持つ」って、簡単に言うなと心の中で思う。
詳しく解説!雑学のコーナー
ストックデールの逆説(Stockdale Paradox)は、経営学者ジム・コリンズが著書「ビジョナリー・カンパニー2」で紹介した概念です。ベトナム戦争で8年間捕虜となり生還したジェームズ・ストックデール海軍中将の体験から、「最終的な勝利への揺るぎない信念」と「目の前の現実の残酷さを直視する」という、一見矛盾する2つの姿勢を同時に持つことの重要性を説きます。 ストックデール中将は、1965年から1973年まで「ハノイ・ヒルトン」と呼ばれた捕虜収容所に収容されました。拷問、独房監禁、栄養失調。多くの捕虜が精神を病み、命を落としました。しかし彼は、150人の米軍捕虜のリーダーとして、独自の通信システムを確立し、抵抗運動を組織し、生還しました。 コリンズが「誰が生き残れなかったか」と尋ねると、ストックデールは意外な答えをしました。「楽観主義者だ。『クリスマスまでには出られる』『復活祭には』『感謝祭には』と期待し、裏切られ続けて心が折れた」。一方で悲観主義者も、希望を失い早々に諦めました。生き残ったのは、現実を直視しながら最終的な生還を信じ続けた者だけでした。 企業経営でも同じ現象が観察されます。2008年金融危機を乗り越えた企業を分析すると、共通点がありました。「危機の深刻さを認識し、大規模リストラを断行」しながら、「長期的成長への投資は継続」していたのです。楽観一辺倒の企業は対応が遅れて破綻し、悲観一辺倒の企業は過度の縮小で競争力を失いました。 日本企業の事例も豊富です。パナソニックは2012年に7,650億円の赤字を計上しましたが、津賀一宏社長は「現実は厳しいが、必ず復活する」と宣言。不採算事業からの撤退と、車載電池への集中投資を同時に実行。2019年には過去最高益を更新しました。現実直視と未来への信念の両立が、V字回復を可能にしたのです。 スタートアップの生存率にも表れています。MIT の研究では、創業者の性格と企業生存率の相関を調査。「現実的楽観主義者」の企業は5年生存率が42%だったのに対し、「純粋楽観主義者」は18%、「純粋悲観主義者」は23%でした。矛盾を抱えることが、生存の鍵だったのです。 コロナ禍でも実証されました。マッキンゼーの調査では、「パンデミックの長期化を想定」しながら「回復後の成長戦略を策定」した企業が、最も高い業績回復を示しました。Zoomは「対面会議は永遠になくならない」と認めながら、ハイブリッド時代への投資を続け、成長を維持しています。 個人のキャリアでも応用できます。リストラされた管理職の追跡調査では、「年齢差別の現実を受け入れ」ながら「自分の価値を信じ続けた」人の再就職成功率が最も高く、平均8ヶ月で次の職を得ました。現実逃避した人は平均18ヶ月、諦めた人の30%は再就職できませんでした。 ストックデールの逆説の本質は、「希望」と「絶望」の間の細い道を歩くことです。どちらかに偏れば破滅しますが、両方を抱えることで前進できる。ストックデール自身の言葉で言えば、「これは私の人生で最も重要な経験だったと言える日が来ると信じながら、今日を生き延びることに全力を尽くす」ということなのです。
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