AIアシスタントが気持ち悪い理由『不気味の谷現象』

インテリ皮肉度
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あるある!こんなシチュエーション

「人間らしい対応を」と言われて導入したAIチャットボット。でも妙に気持ち悪い。ほぼ人間なのに、どこか違う。この違和感、実はロボット工学が40年前に予言していた。

実践!こう使え!

妙に人間っぽいAIアシスタントを見て「不気味の谷ど真ん中ですね」とつぶやく。「中途半端に人間っぽいのが一番怖い」と画面から目を逸らす。

詳しく解説!雑学のコーナー

不気味の谷現象(Uncanny Valley)は、ロボット工学者の森政弘が1970年に提唱した概念です。ロボットや CGキャラクターが人間に似れば似るほど親近感が増しますが、ある程度似ると急激に不気味さを感じ、完全に人間と同じになると再び親近感が戻るという現象です。親近感のグラフが谷のように落ち込むことから、この名前がつきました。 森政弘は工業デザインの研究中にこの現象を発見しました。義手の研究で、機能的な金属の義手より、リアルな肌色の義手の方が「気持ち悪い」という反応が多かったのです。特に動きが加わると、不気味さは倍増しました。「ほぼ人間だが人間ではない」ものに、人は本能的な恐怖を感じるのです。 映画産業がこの現象を実証しています。2004年の「ポーラー・エクスプレス」は、当時最先端のモーションキャプチャー技術を使用しましたが、「子供が怖がる」という批評が相次ぎました。一方、完全にデフォルメされたピクサー作品は愛されています。2019年の「キャッツ」も、人間の顔に猫の体という中途半端なCGが「悪夢のよう」と酷評され、興行的に失敗しました。 企業のAI導入でも同じ問題が起きています。銀行のAIアシスタントが「お客様の気持ち、とてもよく分かります」と応答すると、顧客満足度が急落。NTTデータの調査では、「共感を示すAI」への不快感は73%に達しました。プログラムが人間の感情を真似ることへの、本能的な拒絶反応です。 日本企業の接客ロボットも苦戦しています。ソフトバンクのPepperは、発売当初「気持ち悪い」という反応が多く、3年で生産終了。一方、完全に機械的なルンバや、完全に人間的な初音ミクのコンサートは受け入れられています。中途半端が最も嫌われるのです。 神経科学的メカニズムも解明されつつあります。fMRI研究により、不気味の谷を感じるとき、脳の扁桃体(恐怖中枢)と島皮質(嫌悪中枢)が同時に活性化することが判明。これは腐った食べ物や病気の人を見たときと同じ反応で、「異常なものを避ける」という生存本能が働いているのです。 ビジネスコミュニケーションでも問題になっています。Zoomの「タッチアップ機能」で肌を綺麗にしすぎると、「不気味」と感じる人が増加。LinkedIn の調査では、過度に加工したプロフィール写真は、信頼度を37%低下させました。「完璧すぎる」ことが、逆に不信を招くのです。 メタバースも不気味の谷に苦しんでいます。Meta(旧Facebook)のHorizon Worldsのアバターは、リアルを目指した結果「不気味」と不評。一方、あえてデフォルメしたVRChatやRobloxは人気です。任天堂の宮本茂は「マリオの顔をリアルにしない」と明言し、不気味の谷を回避しています。 最新の研究が示唆するのは、不気味の谷は「カテゴリー認識の混乱」だということです。脳は対象を「人間」か「人間でない」かに分類しますが、境界線上のものは処理できずエラーを起こす。このエラーが、不快感として知覚されるのです。 皮肉なのは、AI技術が進歩するほど、不気味の谷が深くなることです。GPT-4は人間らしい文章を書きますが、時折見せる「人間らしくない完璧さ」が不気味さを生みます。技術が人間に近づくほど、人間でないことが際立つ。これが不気味の谷のパラドックスなのです。

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