危機に気づかない上司と『ゆでガエル症候群』

インテリ皮肉度
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あるある!こんなシチュエーション

「去年より売上10%減?まあ誤差の範囲だろう」じわじわと悪化する状況に慣れきってしまい、気づいたときには手遅れ。変化を認識できない組織の末路。

実践!こう使え!

業績が徐々に悪化している会議で「ゆでガエルっぽくないですか」とポツリ。「徐々に温度が上がると気づかないっていう、あの話」と付け加えて様子を見る。

詳しく解説!雑学のコーナー

ゆでガエル症候群(Boiling Frog Syndrome)は、緩やかな環境変化に対する認識の遅れを表す寓話的概念です。カエルを熱湯に入れると飛び出すが、水から徐々に温めると茹で上がるまで気づかないという話から生まれました。科学的には誤りですが、組織論では重要な警鐘として機能しています。 実はこの話、生物学的には完全な誤りです。1869年にドイツの生理学者フリードリヒ・ゴルツが実験し、カエルは水温が25度上昇した時点で必ず逃げ出すことを証明しました。しかし、この「科学的に間違った寓話」が、なぜこれほど広まったのか。それは人間組織の本質を見事に言い当てているからです。 現代の認知科学が解明したメカニズムは興味深いものです。「正常性バイアス」により、人は緩やかな変化を「正常範囲」として認識し続けます。また「アンカリング効果」で、初期状態を基準として微調整を続けるため、大きな変化を認識できません。ハーバード大学の実験では、1日1%ずつ照明を暗くすると、最終的に20%の明るさでも「普通」と感じることが実証されました。 企業の失敗例は枚挙にいとまがありません。コダックは1975年にデジタルカメラを発明しながら、フィルム事業への固執で2012年に破産しました。売上は毎年5-10%ずつ減少していましたが、「一時的な不況」として処理され続けました。ブロックバスターも、Netflix の脅威を「ニッチ市場」と軽視し、店舗数が毎年10%ずつ減少する中で「調整局面」と言い続け、2010年に倒産しました。 日本の事例も教訓的です。シャープは液晶テレビで世界シェア1位でしたが、韓国勢の追い上げを「品質で勝っている」と軽視。市場シェアが毎四半期2-3%ずつ低下する中、「想定内の変動」として対策を先送りし、最終的に台湾企業に買収されました。東芝の不正会計問題も、四半期ごとの「小さな調整」が積み重なった結果でした。 気候変動はまさに「地球規模のゆでガエル」です。IPCCの報告によれば、産業革命以来の平均気温上昇は約1.1度。年間0.01度という「体感できない変化」が、既に異常気象の頻発を引き起こしています。経済学者ウィリアム・ノードハウスは、この「認識の遅れ」による損失を年間1.6兆ドルと試算しています。 軍事戦略でも重要な概念です。「サラミ・スライス戦術」は、相手が反応しない程度の小さな侵略を繰り返す戦術です。南シナ海での中国の人工島建設も、「漁民の避難所」から始まり、気づけば軍事基地化していました。ロシアのクリミア併合も、「ロシア系住民の保護」という小さな介入から始まりました。 心理学実験が示す対策は明確です。「外部ベンチマーク」の導入で、内部基準の歪みを防げます。「定期的なゼロベース評価」で、慣れをリセットできます。インテルの元CEO アンディ・グローブの「パラノイアだけが生き残る」という言葉は、常に危機感を持つことの重要性を示しています。 生物学的には誤りでも、組織論的には真実。これがゆでガエル症候群の皮肉な本質です。実際のカエルは熱さを感じて逃げますが、人間組織は「前例」「慣習」「正常性バイアス」という見えない鍋に閉じ込められ、茹で上がるまで気づかないのです。

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