重要な議題をスルーする上司と『パーキンソンの凡俗法則』

インテリ皮肉度
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あるある!こんなシチュエーション

「新システム導入は5分で承認、でも社員食堂のメニューで1時間議論」なぜか些細なことほど白熱する会議。みんなが口を出せる話題ほど長引く法則。

実践!こう使え!

些細な議題で盛り上がる会議中に「あ、自転車置き場効果だ」と小さくつぶやく。「パーキンソンの凡俗法則でしたっけ、簡単な話題ほど議論が長引くやつ」と独り言を続ける。

詳しく解説!雑学のコーナー

パーキンソンの凡俗法則(Parkinson's Law of Triviality)、別名「自転車置き場効果(Bikeshed Effect)」は、1957年にシリル・ノースコート・パーキンソンが提唱した、組織における議論の偏重現象です。原子力発電所の建設は簡単に承認されるのに、自転車置き場の色で延々と議論するという皮肉な観察から生まれました。 パーキンソンの原著での例示が秀逸です。原子力発電所の建設費1000万ポンドの議案は2分半で通過。職員用自転車置き場の建設費350ポンドは45分の議論。そして職員用コーヒーの年間予算21ポンドには1時間15分を費やしたという架空の議事録を示しました。専門知識が不要な議題ほど、全員が「専門家」になれるからです。 現代のIT業界でも頻繁に観察されます。Linuxカーネル開発者のPoul-Henning Kampは、FreeBSDプロジェクトで「bikeshedding」という用語を定着させました。重要なコード変更は素通りするのに、変数名やインデントスタイルで激論になる現象です。Mozillaでは、Firefoxのロゴ変更に6ヶ月を費やしながら、セキュリティアーキテクチャの大改修は1週間で決定されました。 認知心理学がこの現象を説明しています。「認知的流暢性(Cognitive Fluency)」により、理解しやすい話題ほど意見を述べたくなります。また「能力の錯覚(Illusion of Competence)」で、簡単な話題では全員が専門家気取りになります。スタンフォード大学の実験では、専門性が低い話題ほど発言者が増え、議論時間が3.7倍に延びることが実証されました。 日本企業の事例も示唆的です。ソニーの元会長・出井伸之氏は「重要な決定ほど短時間で、どうでもいい決定ほど長時間かかる」と述懐しています。実際、プレイステーション開発の承認は30分、社員食堂のリニューアルには累計20時間の会議が費やされたそうです。トヨタでは「30分ルール」を導入し、議題の重要度に関わらず議論時間を固定することで、この効果を抑制しています。 政治の世界でも顕著です。イギリス議会では、EU離脱という歴史的決定よりも、ビッグベンの修復費用により多くの議論時間が割かれました。日本の国会でも、カジノ法案は短時間で可決されましたが、議員会館のWi-Fi設置には3年間の議論を要しました。重大な決定ほど、責任を回避したい心理が働くのかもしれません。 組織病理学の観点からも興味深い現象です。NASA の研究では、技術的に複雑なプロジェクトほど承認が早く、単純な施設改修ほど時間がかかることが判明しました。専門家への依存と、素人でも口を出せる領域での自己顕示欲の差です。これが「専門家の呪い(Curse of Expertise)」と呼ばれる現象につながります。 企業での対策は様々です。Amazonの「サイレント・スタート」は、会議開始時に全員が資料を黙読することで、準備不足による的外れな議論を防ぎます。Appleの故スティーブ・ジョブズは「DRI(Directly Responsible Individual)」制度で、各議題に責任者を明確化し、無関係な意見を排除しました。 数学的モデルも開発されています。「議論時間 = k / (専門性 + 1)」という反比例の関係式が提案され、専門性が低いほど議論時間が増大することを表現しています。この法則を理解することで、会議の時間配分を事前に最適化できるのです。

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