大人数の会議で何も決まらない理由『リンゲルマン効果』
あるある!こんなシチュエーション
「参加者15人の会議、発言するのは3人だけ」誰もが経験する大人数会議の悲劇。人数が増えるほど、なぜか生産性が落ちていく不思議な現象。
実践!こう使え!
大人数会議の後で「リンゲルマン効果ってやつですかね」と同僚につぶやく。「人数が増えると一人当たりの貢献度が下がる現象」と小声で解説を加える。
詳しく解説!雑学のコーナー
リンゲルマン効果(Ringelmann Effect)は、1913年にフランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマン(Maximilien Ringelmann)が発見した、集団における個人の努力の低下現象です。綱引き実験で、人数が増えるほど一人当たりの力が減少することを科学的に証明しました。 リンゲルマンの実験データは衝撃的でした。1人で綱を引くときの力を100%とすると、2人では93%、3人では85%、8人ではなんと49%まで低下したのです。人数が2倍になっても、力は2倍にならない。むしろ個人の貢献度は半減するという、直感に反する結果でした。 現代の研究でメカニズムが解明されています。「社会的手抜き(Social Loafing)」と「調整ロス(Coordination Loss)」の2つが主要因です。MITの研究では、ブレインストーミングで6人を超えると、アイデアの質・量ともに低下することが判明しました。Amazon のジェフ・ベゾスが提唱する「2枚のピザルール」(会議は2枚のピザで足りる人数まで)も、この原理に基づいています。 日本企業での実証研究も興味深い結果を示しています。トヨタ自動車の改善活動では、チーム人数を5人から3人に減らしたところ、改善提案数が1.7倍に増加しました。逆に、某大手銀行では会議参加者を平均12人から18人に増やした結果、意思決定速度が60%低下し、プロジェクトの失敗率が2.3倍になったという報告があります。 歴史的にも多くの失敗例があります。1961年のピッグス湾侵攻作戦の失敗は、ケネディ政権の大人数会議による「集団思考」が原因とされています。NASA のチャレンジャー号事故も、17人の意思決定委員会で、技術者の警告が埋もれた結果でした。逆に、マンハッタン計画の成功は、小規模チームの集合体として組織されたことが要因の一つとされています。 生物学的な観点も興味深いものです。アリの研究では、働きアリの30%が常にサボっているという「働きアリの法則」が知られていますが、これもリンゲルマン効果の一種です。しかし、このサボりアリが緊急時の予備戦力となり、コロニー全体の生存率を高めています。完全な効率化が、必ずしも最適解ではないという示唆です。 IT企業の対策は革新的です。Spotifyの「Squad(分隊)」モデルは、8人以下の自律的チームで構成され、大企業でありながらスタートアップの機動力を維持しています。Googleの研究プロジェクト「アリストテレス」では、心理的安全性が高い5-7人のチームが最も生産的であることを実証しました。 軍事組織も古くからこの原理を理解していました。ローマ軍団の最小単位「コンツベルニウム」は8人、現代の特殊部隊の基本単位も4-6人です。ナポレオンの「分割統治」も、大軍を小単位に分けることで、リンゲルマン効果を回避する戦術でした。 解決策は明確です。「責任の明確化」「貢献の可視化」「チームサイズの最適化」の3つが鍵となります。スクラム開発の「デイリースタンドアップ」は、15分以内、立ったまま、全員が発言という制約で、リンゲルマン効果を防いでいます。
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