成功例だけ見る上司が陥る『生存者バイアス』
あるある!こんなシチュエーション
「スティーブ・ジョブズは大学中退で成功した」「ビル・ゲイツも中退だ」だから学歴は関係ないと言い張る上司。失敗した中退者の山は見えないんですか?
実践!こう使え!
成功事例ばかり話す人に「失敗した会社は話さないから生存者バイアスがかかりますよね。第二次大戦の戦闘機の話、知ってます?」と雑学へ誘導。
詳しく解説!雑学のコーナー
生存者バイアス(Survivorship Bias)は、成功した人や生き残ったものだけを見て判断し、失敗したものや消えたものを無視することで生じる認知の歪みです。この概念が広く認識されるきっかけとなったのは、第二次世界大戦中の統計学者エイブラハム・ウォルドの研究でした。 米軍は帰還した爆撃機の被弾箇所を調査し、被弾が多い部分(翼や胴体後部)を補強しようとしました。しかしウォルドは「帰還できなかった機体こそ調査すべきだ」と指摘。帰還機で被弾が少ない部分(エンジンや操縦席)こそ、被弾すると墜落する致命的な箇所だと推論しました。この逆転の発想により、正しい補強箇所が特定され、生存率が大幅に向上したのです。 ビジネス書の世界は生存者バイアスの宝庫です。「成功企業の7つの習慣」といった本は、失敗企業も同じ習慣を持っていた可能性を無視しています。ジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー』で「永続する偉大な企業」として挙げられた18社のうち、現在も好調なのは半数以下。サーキットシティは倒産し、ファニーメイは政府管理下に置かれました。 投資の世界でも深刻な問題です。ミューチュアルファンドの平均リターンを計算する際、破綻して消滅したファンドは統計から除外されます。これにより、実際より高いリターンが報告される「サバイバーシップ・バイアス」が生じます。ある研究では、消滅ファンドを含めると、平均リターンが年1.5%低下することが判明しました。 起業家精神の文脈でも誤解を生んでいます。「シリコンバレーの成功者は皆、ガレージから始めた」という神話がありますが、失敗してガレージのまま終わった99%の起業家は語られません。スタンフォード大学の調査では、ベンチャー企業の75%が投資家に一銭も返せずに失敗しています。しかし、メディアは成功した1%ばかりを取り上げるのです。 日本の終身雇用制度も生存者バイアスの影響を受けています。「昔は良かった」と語る人は、高度成長期に成功した大企業の正社員です。同時期に倒産した中小企業の従業員や、非正規雇用で苦しんだ人々の声は歴史から消えています。現在の若者に「昔のように頑張れ」と言うのは、生存者の特権的な視点からの押し付けに過ぎません。 最新の研究では、SNSが生存者バイアスを増幅することが分かっています。成功者は積極的に発信し、失敗者は沈黙する「発信者バイアス」により、世界が実際より成功に満ちているように見えます。インスタグラムの「キラキラ投稿」は、失敗や苦悩を見えなくし、非現実的な期待を生み出しています。
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