最初の数字に囚われる上司と『アンカリング効果』
あるある!こんなシチュエーション
「前任者は月100件処理してた」その数字に囚われて、システムが変わっても、環境が変わっても、同じ数字を要求する上司。その100件って、どういう根拠で決まったんですか?
実践!こう使え!
「なぜ30%?」と聞かれたら「最初に提示された数字に引きずられるアンカリング効果かもしれませんね」と心理学用語をさらっと投下。
詳しく解説!雑学のコーナー
アンカリング効果(Anchoring Effect)は、1974年にダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが発見した認知バイアスです。最初に提示された数値(アンカー)が、その後の判断に不適切な影響を与える現象を指します。ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンの代表的な研究の一つです。 有名な実験「ルーレット実験」は衝撃的でした。被験者の前でルーレットを回し、10または65で止めます(実は細工されている)。その後「国連加盟国のうち、アフリカの国の割合は何%か」と質問。10を見た群は平均25%、65を見た群は平均45%と回答しました。全く無関係な数字が、判断を20%も歪めたのです。 不動産業界はアンカリング効果の実践場です。最初に提示される「定価」は、実際の価値と無関係に設定されることが多く、その後の交渉の基準となります。ある実験では、不動産業者でさえ、最初の提示価格に引きずられることが判明。提示価格が10%違うだけで、プロの査定額が平均6%変動しました。 給与交渉でも重要な役割を果たします。最初に提示された給与額が、その後の昇給の基準となる「初任給アンカー」現象が知られています。MIT の研究では、初任給が1万ドル違うと、10年後の給与差は平均2.5万ドルに拡大することが判明。最初の数字が、キャリア全体に影響を与えるのです。 日本企業の予算策定にも深刻な影響があります。「前年比」という考え方自体が、過去の数字をアンカーとする典型例です。ある調査では、日本企業の82%が前年実績を基準に予算を策定しており、ゼロベースでの見直しは稀です。これが、環境変化への対応を遅らせ、イノベーションを阻害する要因となっています。 興味深いことに、アンカリング効果は専門知識があっても回避が困難です。裁判官を対象にした研究では、検察官の求刑(アンカー)が判決に強く影響することが判明。求刑が2年と8年では、同じ事件でも判決に平均3年の差が生じました。専門家でさえ、最初の数字から自由になれないのです。 脳科学研究により、アンカリング効果の神経メカニズムが解明されつつあります。アンカーが提示されると、前頭前野の特定領域が活性化し、その後の情報処理に「バイアス信号」を送ることが確認されています。また、時間pressure下では、このバイアスがさらに強まることも判明。急いで判断させることで、アンカーの影響を最大化できるのです。
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