一つの成功で全能だと勘違いする上司と『ハロー効果』

インテリ皮肉度
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あるある!こんなシチュエーション

「前のプロジェクトで成功した彼なら何でもできる」過去の栄光で人を判断する上司。一つの長所で全てを評価してしまう認知の罠。

実践!こう使え!

誰かを過大評価する発言を聞いて「ハロー効果かもしれませんね」とつぶやく。「一つの成功が後光のように見えちゃうやつ」と小声で付け加える。

詳しく解説!雑学のコーナー

ハロー効果(Halo Effect)は、1920年に心理学者エドワード・ソーンダイク(Edward Thorndike)が発見した、一つの特性が全体評価に影響を与える認知バイアスです。「ハロー」は聖人の頭上に描かれる光輪(後光)を意味し、一つの優れた特徴が全体を輝かせる現象を表しています。 ソーンダイクの軍隊での実験が興味深いものでした。上官に部下の様々な能力を評価させたところ、身体的魅力と知性、リーダーシップ、忠誠心の評価に0.51という強い相関が見られました。見た目が良い兵士は、実際の能力に関係なく、あらゆる面で高評価を受けていたのです。この発見は、人事評価の客観性という幻想を打ち砕きました。 現代のビジネス界でも蔓延しています。ハーバード・ビジネス・レビューの調査では、CEO の身長が1インチ高いごとに年収が約26万円上昇することが判明しました。Fortune 500企業のCEOの平均身長は183cmで、米国男性平均より8cm高い。能力と身長に相関はないはずですが、「背が高い=リーダーシップがある」というハロー効果が働いているのです。 テクノロジー企業での事例も示唆的です。イーロン・マスクがPayPalで成功すると、電気自動車も、ロケットも、地下トンネルも、脳インプラントも「彼なら成功する」と無条件に信じられました。一方、WeWorkのアダム・ニューマンも、カリスマ性というハローで470億ドルの評価を得ましたが、実態は赤字垂れ流しの不動産業でした。 学術研究が明かす数字も衝撃的です。コーネル大学の研究では、有名大学の学位を持つ応募者は、実際の能力テストの点数が20%低くても、80%の確率で採用されました。マッキンゼーの調査では、過去に一度でも大型買収を成功させたCEOは、次の買収で失敗する確率が通常の2.3倍高いにも関わらず、取締役会から全権委任される確率が4倍高いことが判明しました。 日本企業の人事でも顕著です。東京大学の調査では、東大卒という「ハロー」により、入社10年後の昇進率が他大学の1.7倍でしたが、実際の業績評価では有意差がありませんでした。逆ハロー効果も深刻で、一度失敗プロジェクトに関わった社員は、その後3年間、どんなに成果を出しても低評価を受け続ける傾向がありました。 歴史も教訓に満ちています。ナポレオンは「身長が低い」という逆ハロー効果で過小評価され、それが初期の快進撃につながりました。実際は当時の平均身長でしたが、イギリスのプロパガンダが作った印象が今も残っています。逆に、エンロンは「最も革新的な企業」6年連続受賞というハローで、明らかな不正会計も見過ごされました。 神経科学的メカニズムも解明されています。プリンストン大学の研究では、人の顔を見てから僅か100ミリ秒で、脳の扁桃体が「信頼できる」「有能」といった判断を下すことが判明しました。この瞬間的判断が、その後のあらゆる情報処理に影響を与えます。理性的判断の前に、既に脳は結論を出しているのです。 対策として有効なのは「構造化評価」です。Googleは採用面接で、個別スキルを独立して評価する仕組みを導入し、ハロー効果を75%削減しました。オーケストラのブラインド・オーディション(演奏者を幕で隠す)により、女性演奏者の採用率が5倍に増加しました。見た目という強力なハローを物理的に遮断したのです。 ハロー効果の皮肉は、否定しようとするほど強まることです。「外見で判断しない」と意識するほど、逆に外見を意識してしまう。だからこそ、システムとして対策する必要があるのです。

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