反対意見を許さない上司と『集団思考』の危険性

インテリ皮肉度
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あるある!こんなシチュエーション

「みんな賛成だよね?」という圧力。誰も本音を言わない会議。全員一致の決定が、なぜか大失敗に終わる。同調圧力が組織を滅ぼすメカニズム。

実践!こう使え!

全員賛成の雰囲気の中で「集団思考になってないですかね」と小声で言う。「グループシンクって言うんでしたっけ、全員一致は危険信号だとか」と独り言のように続ける。

詳しく解説!雑学のコーナー

集団思考(Groupthink)は、1972年に社会心理学者アーヴィング・ジャニス(Irving Janis)が提唱した、集団の同調圧力による意思決定の歪みです。ケネディ政権のピッグス湾侵攻失敗を分析し、優秀な人材が集まっても愚かな決定をする現象を理論化しました。 ジャニスが示した8つの症状が恐ろしいほど的確です。「無謬性の幻想」で失敗はあり得ないと信じ込み、「道徳性への過信」で自分たちは正しいと確信し、「合理化」で都合の悪い情報を無視し、「ステレオタイプ化」で反対者を敵視し、「自己検閲」で疑問を口にせず、「全員一致の幻想」を作り出し、「直接的圧力」で異論を封じ、「マインドガード」が不都合な情報を遮断する。まるで現代の組織を見ているようです。 歴史的失敗の多くが集団思考によるものでした。1961年のピッグス湾侵攻では、CIA・軍部・ホワイトハウスの誰もが作戦の無謀さに気づいていながら、誰も反対しませんでした。1986年のチャレンジャー号爆発事故では、技術者がOリングの危険性を指摘したにも関わらず、「チームの士気を下げる」として無視されました。2008年のリーマン・ショックも、内部告発者の警告が「悲観的すぎる」として握りつぶされた結果でした。 日本企業の事例も教訓的です。東芝の不正会計問題では「チャレンジ」という言葉で粉飾が正当化され、7年間誰も異議を唱えませんでした。オリンパスの損失隠しも20年間、歴代経営陣が「会社のため」という集団思考で継続されました。福島第一原発事故の国会事故調査委員会は、「安全神話」という集団思考が事故を防げなかった主因と結論づけています。 神経科学が明らかにした生理的メカニズムも興味深いものです。fMRI研究によると、集団に同調する際、脳の報酬系が活性化し、ドーパミンが分泌されます。逆に反対意見を述べる際は、痛みを感じる部位が活性化します。つまり、同調は快感、反対は苦痛という生物学的プログラムが、集団思考を促進しているのです。 IT業界でも頻発しています。Googleの「Google+」は、内部で「FacebookKiller」として祭り上げられ、批判的意見は「ネガティブ」として排除されました。結果は大失敗。Microsoftの「Windows 8」も、タッチ操作への全面移行に内部で疑問があったにも関わらず、「革新的」という集団思考で押し通され、史上最悪のOSと呼ばれました。 軍事組織の研究が対策を示しています。イスラエル軍の「第10の男」制度は、9人が同意しても1人は必ず反対意見を述べる義務があります。米軍の「レッドチーム」は、味方の計画の穴を探す専門部隊です。日本の自衛隊も「悪魔の代弁者」制度を導入し、あえて反対意見を述べる役割を設けています。 企業での対策も進化しています。Amazonの「メモ文化」は、会議前に全員が意見を文書化することで、同調圧力を防ぎます。Bridgewaterの「徹底的な透明性」は、全会議を録画し、誰でも批判できる文化を作りました。Pixarの「ブレイントラスト」は、作品への忌憚ない批判を奨励し、その結果が連続ヒットにつながっています。 集団思考の怖さは、賢い人ほど陥りやすいことです。自信があるからこそ批判を受け入れず、優秀だからこそ自分たちは間違わないと信じ込む。ジャニスの言葉を借りれば、「集団思考は、集団IQを個人IQの最低値まで下げる」のです。

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