効率化すればするほど忙しくなる『ジェヴォンズのパラドックス』
あるある!こんなシチュエーション
IT化で仕事は楽になるはずだった。なのに残業は増え、メールは山積み、会議はオンラインでも倍増。効率化の果てに、なぜか前より忙しい。この矛盾には名前がある。
実践!こう使え!
新しい効率化ツール導入で更に忙しくなったとき「ジェヴォンズのパラドックスですかね」とため息。「効率化すると仕事が増える法則」と疲れた顔で説明。
詳しく解説!雑学のコーナー
ジェヴォンズのパラドックス(Jevons Paradox)は、経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズが1865年に発見した逆説的現象です。「技術進歩により効率が向上すると、資源消費は減るどころか増加する」という、直感に反する法則です。 発見の経緯は産業革命期のイギリスでした。ジェームズ・ワットの蒸気機関は、従来より石炭効率が75%も向上しました。誰もが石炭消費は減ると予想しましたが、実際は10年で石炭消費量が10倍に増加。効率化により石炭が安くなり、使用する産業が爆発的に増えたのです。ジェヴォンズはこれを「効率の呪い」と呼びました。 現代のIT化でも同じ現象が起きています。電子メールは手紙より1000倍速いのに、ビジネスパーソンが1日に処理するメッセージ数は、手紙時代の50倍に増加。マッキンゼーの調査では、知識労働者の28%の時間がメール処理に費やされています。効率化が、かえって仕事を増やしたのです。 リモートワークも典型例です。通勤時間がゼロになったはずが、スタンフォード大学の研究では在宅勤務者の労働時間が平均48分増加。会議も対面時より容易になった結果、Microsoftの調査では会議数が148%増加、会議時間の合計は252%増加しました。 日本企業のDX推進でも顕著です。富士通総研の調査では、業務自動化ツール導入企業の73%で、導入後に残業時間が増加。理由は「効率化で空いた時間に新しい仕事が追加される」「ツールが増えすぎて管理が複雑化」「データ分析要求が際限なく増える」など。効率化が新たな非効率を生む構造です。 交通分野でも実証されています。道路を拡張すると渋滞が解消するどころか、かえって悪化する「誘発需要」現象。ロサンゼルスでは高速道路を撤去したら、逆に交通流が改善しました。東京でも首都高速の拡張後、平均速度は20%低下しています。 ジェヴォンズのパラドックスの本質は、人間の欲望の無限性にあります。効率が上がれば、その分だけ要求水準も上がる。1時間でできることが30分になれば、2倍の仕事を要求される。これは技術の問題ではなく、人間性の問題なのです。
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