数値目標が組織を壊す『キャンベルの法則』
あるある!こんなシチュエーション
KPI達成!でも現場は疲弊、品質は低下、顧客は離れていく。数字は良くなったのに、なぜか会社は悪くなる。この矛盾を、ある社会学者が50年前に予言していた。
実践!こう使え!
KPI会議で数字ばかり追求する上司を見て「キャンベルの法則って知ってます?」と独り言。「測定されるものは必ず歪むらしいです」と資料を見つめる。
詳しく解説!雑学のコーナー
キャンベルの法則(Campbell's Law)は、社会心理学者ドナルド・T・キャンベルが1976年に提唱した組織論の法則です。「定量的な社会指標が社会的意思決定に使われるほど、その指標は腐敗圧力を受け、本来測定すべきものを歪める」という警告です。 キャンベルは教育評価の研究中にこの法則を発見しました。学力テストの点数で教師を評価し始めたところ、教師は試験対策ばかり教え、創造性や批判的思考力が著しく低下。点数は上がったが、真の学力は下がるという皮肉な結果になりました。これを「指標の腐敗」と名付けました。 企業でも同じ現象が頻発しています。ウェルズ・ファーゴ銀行は口座開設数をKPIにした結果、社員が顧客の同意なしに350万の偽口座を開設。フォルクスワーゲンは排ガス基準をクリアするため、1100万台に不正ソフトを搭載。どちらも数値目標への過度な圧力が原因でした。 日本企業の事例も豊富です。コンビニの廃棄率を下げるKPIが、見切り品の隠蔽や発注抑制を招き、機会損失が増大。コールセンターの応答時間短縮KPIが、顧客の問題を解決せずに電話を切る行為を誘発。製造業の不良率低下KPIが、不良品の隠蔽や検査データ改ざんにつながりました。 警察組織でも深刻です。ニューヨーク市警の犯罪率低下目標が、重罪を軽犯罪として記録する慣行を生みました。日本でも検挙率向上の圧力が、自転車盗難などの軽微な犯罪に注力し、重大犯罪への対応が疎かになる事例が報告されています。 医療分野では「DRG/PPS」という診療報酬制度が問題になりました。在院日数短縮が評価指標になった結果、患者の早期退院と再入院の繰り返し(回転ドア現象)が発生。数値上は効率化したが、患者の負担と医療費総額はかえって増加しました。 キャンベルの法則の本質は、「地図は現地ではない」という認識論的問題です。指標は現実の一側面を切り取ったものに過ぎず、それを現実そのものと混同すると、必ず歪みが生じます。特に人間が関わるシステムでは、測定されること自体が行動を変えてしまうのです。
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