小さな問題を放置する上司に教える『割れ窓理論』
あるある!こんなシチュエーション
「そんな細かいこと、後でいいよ」デスクの散らかり、遅刻の黙認、小さなミスの放置。気がつけばオフィス全体がだらしない雰囲気に。最初の一つが全てを変えるんです。
実践!こう使え!
散らかったデスクを見て「割れ窓理論ですね」とポツリ。「一つ放置すると全部がダメになるって話」と独り言を続ける。
詳しく解説!雑学のコーナー
割れ窓理論(Broken Windows Theory)は、1982年に犯罪学者ジェームズ・Q・ウィルソン(James Q. Wilson)とジョージ・L・ケリング(George L. Kelling)が提唱した理論です。建物の割れた窓を放置すると、その地域全体の治安が悪化するという考え方です。 理論の起源は、心理学者フィリップ・ジンバルドの1969年の実験にあります。彼は同じ車を2台用意し、1台はニューヨークのブロンクス、もう1台はカリフォルニアのパロアルトに放置しました。ブロンクスの車は10分で略奪が始まり、24時間で破壊されました。一方、パロアルトの車は1週間無傷でした。しかし、ジンバルドが窓を割ると、数時間で同じように破壊されたのです。 ニューヨーク市の実践が最も有名です。1990年代、ルドルフ・ジュリアーニ市長とウィリアム・ブラットン警察本部長は、地下鉄の落書き除去から始めました。無賃乗車、公共での飲酒など、軽犯罪を徹底的に取り締まりました。結果、1990年から2000年で殺人事件が67%、強盗が64%減少しました。 ビジネスへの応用も広がっています。ディズニーランドは割れ窓理論の実践例として有名です。ペンキの剥がれは24時間以内に修復、ゴミは15分以内に撤去。この徹底により、来園者のマナーも向上し、「夢の国」のイメージが保たれています。年間来園者3000万人にも関わらず、トラブルは極めて少ないのです。 ソフトウェア開発でも重要な概念です。「技術的負債」は、まさにコードの割れ窓です。Microsoftの研究では、バグを1週間放置すると、修正コストが4倍になることが判明しました。コードの品質が低下すると、開発者も「どうせ汚いコードだから」と手を抜き始め、負の連鎖が始まります。 日本企業での実証研究も興味深い結果を示しています。トヨタの5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は、割れ窓理論の産業応用です。工場の床に1本のボルトが落ちていることを許さない文化が、年間不良率0.001%という驚異的な品質を実現しています。 しかし、批判もあります。割れ窓理論に基づく「ゼロトレランス」政策は、時に過剰な取り締まりを生みました。学校での適用では、軽微な違反で退学処分が増加し、社会問題化しました。理論の提唱者ケリングも晩年、「バランスが重要」と警告しています。 組織文化への影響は計り知れません。スタンフォード大学の研究では、オフィスの乱雑さと社員の倫理的行動に相関があることが判明しました。整理整頓されたオフィスでは、不正行為が43%少なかったのです。環境が人の行動を変えるという、環境心理学の重要な知見です。
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