小さな妥協を重ねる上司が招く『些事の専制』

インテリ皮肉度
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あるある!こんなシチュエーション

「まあ、今回だけは特例で」「ちょっとくらいなら大丈夫」小さな例外や妥協を積み重ねる上司。気がつけば原則もルールも形骸化し、収拾がつかない状態に。塵も積もれば山となるって、知らないんですか?

実践!こう使え!

「今回だけ例外で」という言葉を聞いたら「小さな決定の積み重ねが大きな結果を招く、些事の専制ってやつですかね」と独り言ちを装う。

詳しく解説!雑学のコーナー

些事の専制(Tyranny of Small Decisions)は、1966年に経済学者アルフレッド・E・カーンが提唱した概念です。個々には合理的に見える小さな決定の積み重ねが、最終的に誰も望まない大きな結果を生み出す現象を指します。一つ一つの決定は些細で害がないように見えても、累積すると取り返しのつかない事態を招くのです。 カーンが最初に指摘した事例は、ニューヨーク州イサカの鉄道廃線でした。住民は個々の移動で「今回は車で行こう」という小さな決定を繰り返しました。一回一回は合理的な選択でしたが、結果として鉄道の利用者が激減し、廃線に追い込まれました。皮肉なことに、廃線後のアンケートでは、住民の大多数が「鉄道は必要だった」と答えたのです。 環境問題はこの法則の典型例です。「レジ袋1枚くらい」「ペットボトル1本くらい」という小さな決定が、太平洋ゴミベルトという巨大な環境災害を生みました。その面積は日本の4倍、推定8万トンのプラスチックが浮遊しています。企業の不正会計も同じメカニズムです。「今期だけ少し調整」という小さな改竄が積み重なり、エンロンやオリンパスのような巨大スキャンダルに発展しました。 組織マネジメントでは「正常化の逸脱」として知られています。NASAのチャレンジャー号事故は、この典型例でした。Oリングの損傷という「小さな問題」を、「前回も大丈夫だったから」と容認し続けた結果、7名の命が失われました。事故調査委員会は「小さな逸脱の累積が、組織の安全文化を徐々に蝕んだ」と結論付けています。 日本企業でも深刻な事例があります。ある自動車メーカーでは、「納期に間に合わないから、今回だけ検査を簡略化」という決定が常態化しました。最初は月1回、次第に週1回、最後は毎日。5年後に発覚した時には、50万台のリコールと1000億円の損失を招きました。品質管理の専門家は「1%の妥協を100回すれば、品質は36.6%まで低下する」と警告しています。 心理学的には「正常性バイアス」と「段階的関与」が作用します。人間は徐々に変化する状況に鈍感で、小さな逸脱を「正常」として受け入れてしまいます。また、一度小さな妥協をすると、次の妥協へのハードルが下がります。行動経済学では「現在バイアス」として、目先の小さな利益が、将来の大きな損失を見えなくすることが証明されています。 解決策として「ブライトライン・ルール」が提案されています。これは妥協の余地のない明確な基準を設定する手法です。トヨタの「アンドン」システムは、小さな問題でも生産ラインを止める権限を現場に与え、些事の専制を防いでいます。Amazonの「Two-Pizza Rule」も、チームサイズに関する妥協を許さない明確な基準として機能しています。

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