無駄なことをして偉そうな上司と『ザハヴィのハンディキャップ理論』
あるある!こんなシチュエーション
部下でもできる仕事をわざわざ自分でやる役員。効率悪い古いやり方に固執する上司。実はこの「無駄」には、動物行動学的な意味があった。
実践!こう使え!
明らかに非効率なことをしている上司を見て「ザハヴィのハンディキャップ理論かな」と独り言。「無駄ができる余裕のアピールらしいです」とつぶやく。
詳しく解説!雑学のコーナー
ザハヴィのハンディキャップ理論(Zahavian Handicap Principle)は、イスラエルの動物行動学者アモツ・ザハヴィが1975年に提唱した進化生物学の理論です。「コストのかかる無駄な行動こそが、真の実力を示すシグナルになる」という逆説的な理論で、孔雀の羽から企業の非効率まで説明します。 理論の出発点は孔雀の羽でした。あの巨大で派手な羽は、生存には明らかに不利です。目立つし、重いし、逃げにくい。しかしザハヴィは、まさにこの「不利さ」こそが重要だと気づきました。「こんなハンディキャップを背負っても生きていける」という圧倒的な生存能力の証明になるのです。 人間社会でも同じ現象が見られます。高級時計は時間を知るには非効率的に高額ですが、「無駄な出費ができる経済力」のシグナルです。ハーバードMBAの学費は2年で2000万円。オンラインで同じ知識は得られますが、「2年間無収入でも平気」という余裕の証明になります。 企業行動でも顕著です。投資銀行ゴールドマン・サックスは、新入社員に週100時間労働を課すことで有名でした。非効率で非人道的ですが、「これに耐えられる優秀な人材しかいない」というシグナルになっていました。日本の総合商社も、採算の合わない僻地プロジェクトをあえて続けることで、財務的余裕を誇示しています。 スタートアップ界でも見られます。まだ赤字なのに豪華なオフィスを構える企業は、「資金調達力がある」というシグナルを投資家に送っています。Uberは10年間赤字を続けながら、その「余裕」で競合を駆逐しました。赤字という究極のハンディキャップが、逆に強さの証明になったのです。 日本の「根回し文化」も同様です。会議前の個別説明は明らかに非効率ですが、「時間をかけられる余裕」と「人脈の広さ」を示します。接待ゴルフも、4時間という膨大な時間の浪費が、相手への敬意と自社の余裕を示すシグナルとして機能しています。 学術界では「ピアレビュー」がこれに当たります。論文掲載まで2年かかることもザラですが、この非効率なプロセスを経ることが、研究の質を保証するシグナルになります。「査読付き論文」という肩書きは、時間的ハンディキャップを克服した証なのです。 ザハヴィ理論の皮肉は、効率化すればするほど価値が下がることです。メールより手書きの手紙、オンライン会議より対面、ファストフードより会席料理。非効率だからこそ価値がある。現代社会の多くの「無駄」は、実は極めて合理的なシグナリングなのです。
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