何もしない部下を作る上司と『学習性無力感』

インテリ皮肉度
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あるある!こんなシチュエーション

「どうせ何を提案しても却下される」「頑張っても評価されない」やる気を失った部下たち。でもそれ、上司の管理方法が原因かもしれませんよ。

実践!こう使え!

やる気のない部下を見て「学習性無力感かもしれませんね」とつぶやく。「何をやっても無駄だと学習しちゃったのかな」と独り言を続ける。

詳しく解説!雑学のコーナー

学習性無力感(Learned Helplessness)は、1967年に心理学者マーティン・セリグマン(Martin Seligman)が発見した現象です。回避不可能な苦痛を繰り返し経験すると、回避可能な状況でも何もしなくなるという、衝撃的な発見でした。 セリグマンの実験は物議を醸しました。犬を使った実験で、電気ショックから逃げられない状況を経験した犬は、後に逃げられる状況になっても、ただうずくまるだけでした。人間でも同様の現象が確認され、騒音から逃れられない被験者は、簡単な課題さえ解けなくなったのです。 職場での実例は枚挙にいとまがありません。マイクロソフトの研究では、提案の90%以上が却下される部署では、3ヶ月後に新規提案がゼロになることが判明しました。「どうせ無駄」という学習が、創造性を完全に破壊したのです。日本の大手メーカーでも、改善提案制度が形骸化した部署で、不良率が3倍に跳ね上がった事例があります。 生理学的メカニズムも解明されています。学習性無力感の状態では、ストレスホルモンであるコルチゾールが慢性的に上昇し、海馬の神経細胞が死滅します。記憶力、学習能力、意欲、すべてが物理的に損なわれるのです。うつ病との関連も深く、セリグマン自身が後にうつ病研究の第一人者となりました。 歴史的事例として、東ドイツの「シュタージ」による心理的支配があります。国民の3人に1人が密告者という監視社会で、人々は完全に無力化されました。ベルリンの壁崩壊後も、多くの東ドイツ市民が自主的な行動を取れず、「オスタルギー(東への郷愁)」という現象まで生まれました。 教育現場でも深刻です。「ティーチング・トゥ・ザ・テスト」と呼ばれる詰め込み教育は、生徒に学習性無力感を植え付けます。フィンランドが教育改革で世界トップになった理由の一つは、生徒の自主性を重視し、失敗を許容する文化を作ったことでした。PISA調査での「学習への意欲」指標で、フィンランドは常に上位です。 企業での対策は明確です。「小さな成功体験」の積み重ねが鍵となります。Googleの「20%ルール」は、社員に自由な時間を与えることで、コントロール感を回復させます。3Mの「15%カルチャー」も同様です。ポストイットもこの制度から生まれました。自己効力感の回復が、組織の創造性を取り戻すのです。 セリグマンは後に「学習性楽観主義」を提唱しました。無力感が学習されるなら、楽観主義も学習できるという逆転の発想です。認知の歪みを修正し、小さな成功を積み重ね、コントロール感を取り戻す。これが現代のポジティブ心理学の基礎となっています。

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