優秀な人材を追い出す上司と『グレシャムの法則』
あるある!こんなシチュエーション
「あいつは扱いにくいから」優秀だけど意見をはっきり言う部下を疎んじ、イエスマンばかり重用する上司。気がつけば優秀な人材は全員退職し、残ったのは…。悪貨は良貨を駆逐するって知ってます?
実践!こう使え!
「また優秀な人が辞めた」という話を聞いたら「悪貨は良貨を駆逐する、グレシャムの法則みたいですね」と感想を漏らすだけ。
詳しく解説!雑学のコーナー
グレシャムの法則は、16世紀のイギリスの財政家トーマス・グレシャムが提唱したとされる経済法則です。「悪貨は良貨を駆逐する」という内容で、額面価値は同じでも実質価値の異なる貨幣が流通すると、良質な貨幣は退蔵され、粗悪な貨幣ばかりが流通するという現象を指します。 実はこの法則、グレシャムより前から知られていました。14世紀のニコル・オレームや、古代ギリシャのアリストファネスも同様の観察をしています。グレシャムはエリザベス1世の財政顧問として、当時のイギリスで横行していた貨幣の改鋳問題に対処する中で、この原理を体系的に説明しました。金や銀の含有量を減らした粗悪な貨幣が出回ると、人々は良質な貨幣を手元に残し、粗悪な貨幣で支払いを行うのです。 組織論への応用は20世紀に入ってから本格化しました。経営学者のサイモン・クズネッツは「組織のグレシャムの法則」として、無能な管理者の下では有能な部下が去り、無能な部下だけが残る現象を指摘しました。実際、Gallup社の調査では、優秀な社員の離職理由の75%が「直属の上司との関係」であることが判明しています。 日本の企業では特に顕著な事例があります。ある大手電機メーカーでは、技術力の高いエンジニアが意見の対立から冷遇され、次々と退職。彼らは競合他社やスタートアップに移り、革新的な製品を開発しました。一方、元の会社には技術力の低い社員だけが残り、10年後には市場シェアが半減しました。ソニーの「出る杭を伸ばす」文化が失われた時期と、業績低迷期が一致するのも偶然ではありません。 IT業界では「10xエンジニア問題」として知られています。生産性が10倍高いエンジニアは、しばしば妥協を許さず、意見も強く主張します。このような人材を「扱いにくい」として排除する組織では、平凡なエンジニアだけが残り、技術革新が停滞します。GoogleやNetflixが「Brilliant Jerks(優秀だが性格に難あり)」をどう扱うかに腐心するのは、この法則を理解しているからです。 心理学的メカニズムとして「類似性魅力効果」があります。人は自分と似た人を好む傾向があり、能力の低い管理者は、自分を脅かさない部下を好みます。また「ダニング=クルーガー効果」により、無能な管理者ほど有能な部下の価値を理解できません。結果として、組織の知的レベルは管理者のレベルまで低下していきます。 最新の研究では、「心理的安全性」の低い組織ほど、グレシャムの法則が強く働くことが分かっています。Googleの「プロジェクト・アリストテレス」でも、異論を安全に述べられる環境こそが、優秀な人材を保持し、イノベーションを生む鍵であることが証明されました。逆に、異論を排除する組織は、確実に劣化していくのです。
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